公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
プリオールセンという領地への関心は薄い。
私の家の領地と言われたって、見たこともない土地であり、知らない人々が暮らしている。
父も祖父の顔も知らない私は、彼らの悔しさを受け継いでいなかった。
ジェイル様は私を抱いたまま、顔を覗き込もうとしている。
おそらく、領地の話に食いつかない私の態度が不思議だったのだろう。
「プリオールセンは、様々な作物の育つ豊かな土地だぞ」
「そう」
「南北に細長い形の領地で、南端は海に接し、港もある。取り戻したいと思わないのか?」
「思わないわ。プリオールセンなんて知らない。私は生まれたときから、ゴラスの民よ」
もしかしてジェイル様は、私に領地を取り戻させたいのかしら?
それが私を連れてきた、彼の企み?
エリオローネ家の復活が、彼にとってどのような利益に繋がるのかは分からないが、詳しく知りたいという気持ちにはならなかった。
領地を取り戻すつもりは、さらさらないのだから。
ただ、私たちの思惑は別々の方向を向いていると知って、私の目的を遂げることの難しさに思い悩むだけ。
『俺がお前に惚れる必要はない。クレアを俺の虜にして操ってやる 』
さっきの言葉は単なる仕返しかと思っていたけれど、本心かもしれないわ。
腰に回される腕の力を強められ、優しげな手つきで頭を撫でられながら、私は自分に注意を与える。
この人に惹かれないよう、常に心を冷やしていないと。
私だけが利用されてしまわぬように、気をつけないと……。