公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
謀の中でも愛のために生きていく
◇◇◇
夏は過ぎ、秋が始まる。
ゴラスに帰ってきてから、半年になろうとしていた。
生きるために忙しく働く日々。
でもそこには以前と違った皆の笑顔があり、穏やかな幸せに包まれていた。
正午を知らせる教会の鐘の音が、青空に吸い込まれていく。
それを聴きながら、私は孤児院を目指して丘を登っていた。
手に提げているバスケットの中身は、ベーコンと卵。
みんな、喜んでくれるかしら……。
見えてきた孤児院は、真っ白な塗り壁が緑に映え、美しく生まれ変わっていた。
ゲルディバラ伯爵からの補助金で、補修が施されたからだ。
建物の前に広がるかつての菜園は、今は野菜を育てるスペースを半分以下に減らし、勝手に自生したコスモスがピンクや白の花弁を風になびかせている。
子供たちが小さな手を豆だらけにして自給自足をしなくても、今は補助金で食料を買うことができるというありがたい状況。
だから畑に子供たちの姿はなく、きっとみんなは思い思いに遊んでいるのだろう。
シスターに読み書きを習う余裕もできて、孤児の暮らしはやっと、子供らしいものになった。
なんて素晴らしいの。
夢のようだわ……。