公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
コスモス畑を抜けて孤児院のドアを開けると、ちょうど中から出ようとしていた人にぶつかってしまう。
「あら、ごめんよ」と謝ってくれたのは、見知らぬ四十代くらいの女性で、年季の入ったエプロンに枯れ草色の三角頭巾を被り、ゴラスの町の民と思しき身なりをしていた。
私も謝って誰なのかを尋ねようとしたが、彼女は忙しそうに、汚れたおしめの入った木桶を抱え、裏庭へと歩き去った。
首をかしげつつも、私は建物の中へ。
廊下に響く子供たちの笑い声を聞きながら、食堂のドアを開ける。
「シスター、こんにちは。今日はベーコンと……」
言葉が続かなかったのは、来客中であったため。
いや、客ではないようだ。
先ほどぶつかった人と似たような身なりの女性がもうひとりいて、シスターと一緒に乳飲児にミルクを与えていた。
「クレア、いらっしゃい。いつもありがとう」とシスターが声をかけてくれる。
食堂の椅子に並んで座るふたりに近づいて、「あの、こちらの方は?」と問いかけると、シスターが顔を綻ばせて言った。