公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
勉強が、なんの役に立つというのよ……。
読み書きや金勘定はできる。
それ以外の教養を身につける必要性が理解できずに、命令には従っていない。
私には月ごとに給金が支払われるのだから、労働をもってそれに応えたい。
必要性を感じないことに加えて、贅沢に勉強をして一日を終わらせるなんて、ズルをしている気分で落ち着かないのだ。
仕事を求める私と、『無用』の単語を繰り返す、厳しい表情のオズワルドさん。
ドア前で押し問答を続けていたら、まだ白い寝間着姿のジェイル様が、ナイトガウンを無造作に羽織って、彼の後ろに現れた。
髪が少々跳ねているところさえ、魅力に変えてしまう麗しい男は、片眉を吊り上げて呆れたように私を見る。
「クレア、オズワルドは忙しい。煩わせてくれるな」
オズワルドさんの前に出て、私と向かい合うと、ジェイル様は私の頭に大きな手の平をポンとのせた。
まるで駄々子をあやすような仕草にムッとして、その手を払いのけると、私は直ちに切り返す。
「忙しいのならなおのこと、私が手伝います。仕事を与えて」
「駄目だ。時間があるなら本を読め。朝の勉強ははかどるぞ。お前の行き先は書庫だ。嫁入り前の娘が、男の寝室に立ち入るものじゃない。分かったら、回れ右だ」