公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

ジェイル様の手が私の肩を掴んでくるりと体の向きを反転させ、その後に背中をトンと押された。

一歩前につんのめった直後に、パタンとドアの閉められた音がして、振り返るとふたりの男性の姿は消えていた。

ドアを見つめて、困ったと心の中に溜め息をつく。


ゴラスでは、私がたった三秒見つめただけで男たちはたちまち頬を赤らめ、嫌らしく言い寄ってきた。

このプラチナブロンドの髪や碧眼や白い肌を褒めそやし、みんなが私に触れたがった。

それなのに、私が見つめても、作り笑顔で話しかけても、ジェイル様は動じない。

僅かにでも心を動かしてはくれないのだ。


美貌という私の武器が、彼に通じないのはどうして?

彼自身が見目麗しい男性だから?


自分を美しいとみなしているのは、ナルシスト的な思いではなく、客観的な感覚だ。

ゴラスで言い寄ってきた男たちが、私の容姿は男に求められるものだと、教えてくれたのだ。


もしや、王都の女性たちは優れた容姿の者が多く、ここだと私は平凡の部類に入るのだろうか……。

それなら私は困ることになる。

自分から男を誘って惑わせた経験はなく、どうしたらジェイル様の心を奪えるのか、さっぱり分からない。

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