公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
見た目の他に、使える武器はないかしら……。
冷静に黒い考えを巡らせながら廊下を歩き出し、私は自室へと引き揚げた。
その日のほとんどを自室で企むことに費やした私は、空が薄っすらと赤みを帯びるのを見て、やっと部屋を出る。
向かう先は、別棟にある厨房だ。
夕方のこの時間、使用人たちはお茶を飲みながら休憩中だと知っている。
オルドリッジ家の人間はジェイル様しか暮らしていないというのに調理人は五人もいて、晩餐の準備には少しばかり早いから、彼らもティータイムの輪の中に混ざっているはずだ。
別棟の廊下を、足音を忍ばせて歩く。
前方には開けっ放しのドアがあり、その中から大勢の楽しそうな話し声が聞こえてきた。
「でね、今朝は洗濯を手伝わせろと言うのよ。もう、びっくりしちゃって。ご実家では洗濯を日課にしていたとも話してたわ」
「趣味が洗濯? 変わったお嬢さんだな。クレアさん、どこの家の娘さんと言ってたっけ?」
「さぁ? オズワルドさんからは、懇意にしている子爵家の令嬢としか聞かされていないよ」