公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
どうやら話題にしているのは、私のことみたい。
二十数年前に領地を奪われた辺境伯の娘であることは、他の者には『黙ってろ』とジェイル様に言われている。
エリオローネという家の名も口にしてはいけないし、印璽も見せてはいけないそうだ。
ゴラスを発つ馬車内で、その理由を彼はこう説明した。
『お前の家が敗戦したせいで、国境線が書き換えられたんだ。この国に害を及ぼした一族だと、敵意を向ける者がいてもおかしくない。素性を隠した方が身のためだ』
その言葉は私の身を案じているように聞こえたけれど、裏がありそうな感じの笑みを、口の端に浮かべていたのが気になった。
私を連れていくことにしたのは、ただ単に気に入ったからではなく、なんらかの思惑があってのことだったのかもしれない。
しかし、あのとき、すぐに問いただすことはしなかった。
私だって彼を利用しようと企んでいるのだから、お互い様。
ジェイル様が私をどうしようとしているのかは、これから距離を縮めつつ探っていけばいい。