公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

ドアに近づいてそっと部屋の中を覗き込む。

そこは使用人の食堂で、三十人ほどの男女が簡素な木目のテーブルを囲んでいた。

大きなテーブルの上には、焼き菓子が数種類と果物やジャムの瓶が並べられ、紅茶を飲みながら会話を楽しみ、なかなかの贅沢ぶりだ。


すごいわね……。

ゴラスの庶民には、夕方のティータイムの習慣はなかった。

そんな贅沢ができるのは一部の金持ちだけで、これだけ見るにつけても、王都の民はゴラスの民よりも豊かな生活を送っているのがよく分かる。

孤児院の子供たちがひとり立ちした後には、ここの使用人のように、ひとときのティータイムを楽しめる生活をさせてあげたい……。


私を動かすのは、丘の上の孤児院の子供たちの顔。

今も子供たちのことを思いながら、足音を立てないように気をつけて、素早く食堂前を通り過ぎ、廊下の突き当たりにある無人の厨房へと足を踏み入れた。


広々とした厨房には、煮炊き用のレンガのかまどが四つもあり、壁にはめ込まれた立派な石窯もあった。

たくさんの調理器具が壁にかけられて、天井からは干し肉の大きな塊が三つもぶら下がっている。

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