公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
『ドリスの宿屋の台所と、ずいぶん違うものね』と感心しつつ、私は部屋の中央にドンと構える調理台に歩み寄る。
そこには今夜の晩餐用と思われる、たくさんの食材が並べられていた。
まだ見に行ったことはないが、王都には巨大な港があると聞いている。
そのためか、ここでの食事のメイン食材は、肉より魚介類のほうが多かった。
ゴラスは海から遠く離れており、私は川魚料理しか作ったことはないけれど……なんとかなるだろう。
これから私は勝手に料理する。
それは自室にこもって半日を費やし、やっと思いついた企みの第一段階だ。
平べったい魚の名前は知らないが、木桶に入っていた見たことのない魚十匹をすべて捌いて、白身に小麦粉をまぶす。
それをバターでソテーした後は、発酵させてあったパン生地を伸ばして捻りを加えて成形し、石窯で焼いた。
野菜と干し肉のスープを作り、白身魚のソテーにかけるトマトソースを作り終えたら、厨房の入口に人影が見えた。
「く、クレアさん!? なにやってるんですか!」と男性調理人たちが、慌てて私に駆け寄ってくる。