手のひら王子様
そこには、背の高いスーツ姿の若い男の人がすっごい不審そうにわたしを見下ろしていた。



「えっ? いやぁ……」



上手い言い訳も見つからず、思わずしどろもどろしてしまう。



そんなわたしの手を、椋太朗がバッグの中から両手で引っ張った。



「走れっ桜菜!」



椋太朗の声につられるようにわたしは、バッグを両腕に抱えて全力疾走した。



走る背中に小さく、



「椋様っ」



聞こえた気がした。

< 21 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop