手のひら王子様
「なんて言うと思った? この不良娘っ」


「へっ? 痛ッッ!」



わたしの頭を撫でていたお母さんの手は、



何故だかわたしの頬をぐいぐい引っ張っていた。



「昔からアンタは何だって口にしないで一人で突っ走って……。珍しくワガママ言ったかと思えば一人暮らしだなんて……」



そして、そのまま始まるお母さんの愚痴タイム……。



助手席の窓からは百合菜が、



わたしの服のポケットからは椋太朗が呆然とつねられるわたしを見上げている。



「ホントは反対だったけど、百合菜が行かせてやれって言うから……」



お母さんの目には、



理由のわからない涙が浮かんでいた。



「わたしもお父さんも……アンタを心配してるのよっ! 連絡の一つくらいしなさい!」



気がつけば、わたしはお母さんに抱きしめられていた。



いつ以来だろ……。



こんな風にお母さんに抱き締められたのは……。




……ホントは覚えてる。



昔はよくお母さんに抱っこしてもらってた……。



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