手のひら王子様
入院して百合菜が居ない夜は、



百合菜が心配で心細い反面、



お母さんを独り占め出来るから嬉しい……なんて、不謹慎にも喜んでた。



病院から帰ってきたお母さんと一緒にお風呂に入りながら、



学校で褒められた話をして、



髪の毛洗って貰ったり、



ドライヤーで乾かして貰ったり……。



そんな風に過ごす中で、



お母さんはわたしを抱き締めて必ず言う言葉があった。




「桜菜は……元気に生まれてくれてありがとう」



わたしはその言葉が誇りであり、



悲しくもあった。



歳の変わらない百合菜が独りで病院のベッドにいる……。



そして、



病弱に生まれた百合菜を、



丈夫に生んであげられなかったお母さんの苦しさ。



それを埋める為にも、



わたしは両親を困らせるわけにはいかない……。




いつの頃かの小さなわたしが誓った、小さな決意……。
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