手のひら王子様
「……こんなとき、腕一杯に桜菜を抱き締めてあげれたら……って何回も思った」


「えっ?」



あまりにも椋太朗の声が静かすぎて、



わたしは思わず目の前の椋太朗をじっと見つめた。



そんなわたしの瞳を見つめ返しながら、



「桜菜が寂しいのをガマンしてるってわかったとき、こうやってボロボロ泣いてるとき、ティッシュしか出されへんのは……男として情けないな」



椋太朗は切なげに微笑んだ……。



なんでだろう……。



やたらに胸騒ぎがするのは……。



「椋太朗……」



言い知れない不安にかられて名前を呼んでみる。



「好きやで。桜菜」

囁いた椋太朗の小さな唇がわたしの口に触れる……。



これをキスと呼んで良いのかわからない……。



でも、



キスだって思いたい……。



その途端、



椋太朗は眠るように瞳を閉じて、




動かなくなってしまった……。




いつかはこんな日が来てしまうって、頭の片隅ではわかっていた……。



それでも、



わたしの涙は再び溢れ出す。



目の前の椋太朗はもう、



笑ってティッシュを出したりはしてくれない……。
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