手のひら王子様
突然、見知らぬ女子高生に名前を呼ばれた椿雪さんは、怪訝そうにわたしを見つめている。



そりゃそうか……。



「あの、突然すみません……。わたし槇 桜菜って言います」



とりあえず不審な人間でないことを知らせようと、わたしは自己紹介をした。



わたしの名前を聞いた椿雪さんは何を思ったか、



眉をひそめながらわたしの顔をじっと見つめてくる……。



黙って見つめる椿雪と、


黙って見つめられるわたし。



こうしていても埒が開かない……。



意を決してわたしはカバンに手を入れた。



「実はわたし、椋太朗さんにお返ししたいものがあるんです」



カバンからハンカチに包んだ椋太朗の人形を椿雪さんに差し出す。



それを受け取った椿雪さんの表情が変わった。



「やっぱりアナタが……」



一人納得したように頷く椿雪を、わたしはただ呆然と見上げる。




一人で納得されても……全くわかんないんですけど……。



「きちんとお話します。こちらへ」



こう言って椿雪さんはしなやかな手つきで、わたしを豪邸の中へと促した。
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