手のひら王子様
「しかし……椋様が十二歳のとき、奥様は事故で亡くなられてしまいます……」




椋太朗は、お母さんと死に別れてしまった……。




椿雪さんの話を聞きながら、わたしの頭には不意に自分のお母さんの顔がチラついて胸が締め付けられる……。




ごめん椋太朗……。



血の繋がった両親も居る、いつだって心配してくれているお母さんも居るわたしはどんなに望んだって、椋太朗の痛みが完全にはわかってあげられない……。




沸き上がるのは行き場のない悔しさと、苛立ちだった……。




「それからの旦那様は、椋様を一層可愛がられました。中学生になった椋様をしょっちゅう連れては色々な所へ行かれて……」



だからだろうか……。



お父さんが中学生の頃の椋太朗が一番可愛かったって言うのは……。




最愛の人を失った痛みを、共に分かち合って支え合ったから……。




だったら何故だろう?



何故椋太朗はお父さんに反発する必要があったんだろう……。





疑問を口にすれば、答えはすぐに返ってきた。
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