小さなポケット一杯の物語
『優さんも何か願い事をしたのかしら?』

『さぁのう。竹は成長が早いから短冊はすぐに手の届かない所に行ってしまうからのう。』

神主さんは、そう言って境内に生い茂る竹藪を見上げたの。
その中の一本に短冊がぶら下がっているのを見つけたんだ。

『(あれは優さんのかなぁ?)』

って、あの時はそんな思いでこの竹藪を見てたんだぁ。
あれから五年!茜ももう三十かぁ。
あっ!いっけない。ぼ〜っとしてならまた優さんに先に見つけられちゃう。
優さんと初めて会ってから今日でちょうど十年!
また七夕の日がやってきた。
今日は茜から声をかけたいんだ!
だって、やっと言える様になったんだから。

『小さな幸せを感じられる様になったら、たくさんの幸せを感じられる様になった。そしたら幸せにはいろんな種類がある事に気が付いたよ。』

ってね。そしたら優さんはきっとこう言うわ。

『じゃあ今度はポケット一杯になった幸せを人に分けてあげなきゃね』

って。
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