小さなポケット一杯の物語
『誰だ?どうして…?ここにはもう誰もいないはず…。』

私はそう思った。

「靴まで脱いじゃって冷たくない?」

男は、私を茶化すのを楽しんでいるようだった。

「誰だか知らないが邪魔をしないでくれないか!」

私がそう言うと、男はポ〜ンと私の所へ飛び降りて来た。
どうやら男はこの屋上にある階段室の屋根からずっと私を見ていたようだ。

「そういうわけにはいかないんだよねぇ。俺も人生かかってんのよ。お・じ・さ・んに。」

男は妙に軽い感じで二十歳前後に思えた。

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