ねぇ、俺の声聴こえてる?
音楽は何も流れてないけど、イヤホンをしてるってだけでなんとか安心してくれたらしい。
そっと頰に触れてみる。
でも、なんの抵抗もしないでじっとしている。
良かった……俺への恐怖心はなくなったみたいだ。
文通やら祭りデートやらした甲斐があった!
「何があったの?」
優しい声を意識して聞いてみると、黒瀬は何も言わずに目を逸らした。
何か言いたく無い理由でもあるのか?
「ヘッドホンは、どうしたの?」
「……落としました」
小さな声でそれだけ言うと、黒瀬は俯いてしまった。
いや、絶対盗られただろ。
黒瀬は誰に対しても特に害がなく、ただの空気みたいに扱われてきたから、今更誰が黒瀬を虐めたんだ。
見当もつかねぇ……。
取り敢えず今は、隅っこで蹲る黒瀬を保健室に運ぼう。
「黒瀬さん、保健室行こうか」
「え、わっ……!」
黒瀬を横抱きにして保健室まで運び、
後は保健の先生に任せて、教室に戻った。