ねぇ、俺の声聴こえてる?
次の日、私は黒瀬 妃菜を訪ねた。
「貴女が、黒瀬 妃菜?」
ヘッドホンを取り上げてそう問うと、彼女は瞠目したまま固まってしまった。
手や足が小刻みに震えている。
名前を聞いただけで、どうしてこんなに怖がるの?
「聞いてるの?」
「……っ、あ……」
ビクッと肩を跳ねさせて、顔が真っ青になっている。
なんなのこの子。
ついには耳を押さえて、蹲ってしまった。
「……ちょっと、」
「ひぃっ!」
髪を掴んで立ち上がらせようとしても、足に力が入っていないらしく出来なかった。
「人の話聞きなさいよ!」
そんな様子にイライラが最高潮になった私は、つい癖で彼女の腹を蹴りあげた。
鈍い音をたててめり込んだ腹部にえずく黒瀬 妃菜。
口端から唾液を垂らして、涙でグシャグシャになった顔は醜くて汚い。
「もういい……また出直すわ」
何をしてもまともに会話できそうにない。
今日のところはこの辺で許してあげるわ。
腹を抱えて土下座してるみたいに蹲る黒瀬 妃菜に背を向けて歩き出した。
ずっと握ったままだった黒いヘッドホンは、窓の外に捨てた。