ねぇ、俺の声聴こえてる?
ヘッドホンに触れていた手を叩かれた。
その手にコードが引っかかって、ヘッドホンが外れて床に落ちた。
「……あ、」
落ち、ちゃった。
俺は一瞬動揺して、固まってしまった。
でもすぐに我に返って、ヘッドホンを拾った。
「ご、ごめんね黒瀬さん。大丈夫?」
ヘッドホンを差し出しながら顔を覗き込むと、黒瀬は耳に手を当ててしゃがみ込んでしまった。
体が小刻みに震えている。
ど、どうしたんだ、大丈夫か?
俺は黒瀬に続いて膝をついてしゃがんで、彼女の手に触れた。
「きゃぁ……っ!」
小さな悲鳴を上げて後退った黒瀬は、すぐ後ろにあった机の脚に激突した。
あーあ……、何してるんだ、この子は。
若干呆れながら、彼女の腕をとって立たせると、スポッとヘッドホンを頭にかけた。
「ごめんね、これ、渡そうと思っただけなんだ」
できるだけ優しく笑って、優しい声で言って生徒手帳を渡したけど、聞こえてない……な。うん。
恐怖に顔を歪ませる黒瀬の頭を撫でてみる。
ビクッと体が硬直してる。
……なんか、可哀想になってきた。
俺たちの事をずっと見ていたクラスメイト達に、大丈夫だって告げると、皆は教室を出て行った。
今教室には、俺と黒瀬しかいない。