魔王木村と勇者石川
「みなさま、準備が出来ましたー。別の部屋で待機してますー」
誉ちゃんがドアからひょっこり顔を出して、そう告げる。
かわいい。カメラ。
かわいい。連写。
かわいい。
「ほーたーるー先輩?」
ビクッ
後ろから這うような低い声音が蛍の耳朶に響く。
「しっ、白山さん?」
「没収です」
「なっ!」
カメラを手から素早く抜き取られて、蛍は咄嗟に取り返そうと手を伸ばして、止めた。
ふふふっ
「そんなー」
落ち込んだように俯いてほくそ笑む。
ふふっ。ひかかったな。
カメラが一台しかないなんて誰が言いました?誰も言ってませんよねー。
はい、残念ー。
予備のカメラなんて、プロのストーカーなら持ってるに決まってるじゃないですかー。
私なんてすぐ色々壊すし?
まあ、そんなこと分からないなんて、白山さんもまだまだ。
「蛍先輩?」
俯いたままの蛍を心配して、さすがの白山さんも不安げな声を上げる。
だが、蛍の演技をぶち壊すかのように、
「蛍、ニヤニヤしすぎー」
と、なんの悪意もなく迷がほがらかに笑うのだった。
「にっニヤニヤなんてしてませんー。チョーゼツ、ベリベリ、激悲しんしんまるですー」
「それ、全然悲しんでないやつです、先輩」
リズミカルに手で涙を拭うふりをする蛍に、白山さんの方が激悲しんしんまるな顔をしていた。