魔王木村と勇者石川
一方、控え室。
「百歩譲って、木村と鎌田がこういう場に呼ばれるのは仕方がないとしよう」
「うん」
「だが、なぜ俺までここにいるんだ!!」
「うん?」
吼える石川くんに木村くんは首をかしげた。
「石川も立役者じゃん。むしろ、俺が呼ばれるのがおかしいっていうか___」
「誰もおかしくはないと思うぞ」
どこまでもネガティブ発言が続けそうになった木村くんを止めたのは、石川くんではなく、突然入ってきた鎌田くん。
それを見て、口をあんぐり開ける二人に、鎌田くんは首を傾げた。
「なんだ?俺も来ると聞いてなかったのか?」
「えっ、いや、なんつーか。………その格好、とうとう頭がおかしくなったのか?」
「あー」
二人の反応のわけに思いいたり、鎌田くんは苦笑した。
「着せられた」
犯人は言わなくても二人に伝わり、冷や汗が伝う。
「ほっほう、そうか。それは大変だな。俺はもう帰るところだ」
「俺も用事が___」
慌てて席を立ち出す二人に、鎌田くんは黒い笑みを浮かべる。
「ちなみに、二人の分も預かっている」
止めを刺さされた二人はガックリと項垂れた。
「回避することは?」
「不可能だ。この建物の前には集まった体験授業受講者で一杯で、気づかれずにはまず出られまい」
「クソ、やられた」
「でも、服は…?」
「この服を着ないとこの部屋から一生出られない魔法がかかっているそうだ」
その言葉に困った顔で、木村くんが一言。
「………魔法の無駄遣い」
「全くだ」
諦めて大人しく服を受け取った二人に鎌田くんは笑った。
嫌なら、この二人ならそんな魔法などどうにでもできるだろうに。でも、決して彼らはそうはしない。
そしてきっとそれが、共に過ごした日々で生まれた彼らの情なんだろう。
少なくとも、仕方ないから付き合ってやるかと思うくらいの情が、そこにはあるのだと思う。