魔王木村と勇者石川
遡ること数日前のあの夜。
『実は、こっちの新しい学校の創設に、魔王である木村、お前に協力してもらいたい』
石川くんがそう告げる。だが、それだけでは何がなんだかさっぱり分からない。
それを察して、石川くんは続ける。
『両国の国交ができた今、人間の子供たちの夢は魔物の国に行ってみることらしい。全く、物好きな子供が多いと困る』
辛辣な言い方だが、確かに言いたいことは分かる。
確かに、国交が安定した今、両国は和平状態にあるが、人の子が何も持たず魔物の国にやって来ることは不可能だ。
魔王が統治しているとはいえ、辺境地域では言葉を介さない下級の魔物がたくさんおり、無差別に人の子をワーって襲う恐れがあるし、人間と馴れ合うことを嫌う種族もいるにはいる。石投げニンゲン帰れコールが起こるかもしれない。
『迷惑な子供の夢なだけであれば、無視して構わないものだ。だが、外交官が必要になってきたのは確かだ。交易など色々なものに手を出していけば、いつまでも俺たちだけで回すのは無理が出てくるからな』
全くもってそのとおりだ。高等の信頼できる魔物が人間の国に行くのは造作ない。だが、人の子は違うことに、蛍はついぞ気づいてなかった。
『そこでだ』
石川くんが言葉をきる。
『魔物の国のことも学べる学校をつくることになったんだ』
なるほど。
ぶんぶんと横で頷く魔女を横目に、石川くんは木村くんを真っ直ぐ見据える。
『アドバイスも色々欲しいが、それはまあ連絡を取り合うとして、授業プログラムができたら、その学校の体験授業に来てくれないか?』
とても真剣な表情。
普段、魔女のふざけたことに付き合ってくれる二人だが、今は遠く感じる。二人は国は違えど一国の要を担う存在なのだ。
『ん、じゃあ詳しく決まったら連絡して。聞きたいことも遠慮なく』
二人の雰囲気に気圧された魔女は俯く。
午前零時。
この二人が寝る時間はもっと後なのだろう。
『…なんか、出来ることないかなー?』
迷が石川くんを見上げる。
『あ?』
『体験授業の企画、私と蛍がやっちゃダメ?』
『………まあ、お前らなら下手なことをしなければ問題はない』
『ほっ、本当?』
『つまらん嘘はつかん』
そんなわけで、魔女二人は今日までこの日のために色々と用意してきたのだ。
それが、今のこの状況。