魔王木村と勇者石川


「俺は下手なことをしなければ問題ないって言ったんだ」


「あははははー」

石川くんの一喝に蛍は棒読みで笑う。


「笑い事じゃないぞ。俺たちはこんな茶番に付き合うほどヒマじゃ___」

「それは違います」


ナイスなタイミングで遮ったのはなんとなんと白山さんで、


「私の師匠は頼りないし、いつもふざけてるし、忘れっぽいし、働かないし、変なお願いばっかりするし、すぐ寂しがるし」


あれ?あれ、あれ?

気のせい?気のせいだよね?
なんか悪口のオンパレードな気がするなんて、気のせいだよね?


「良いところなんてヘラヘラ笑ってストーカーしてるところくらいです」

「………」


極めつけは長所ストーカーである。

なんと言えばいいのか分からなくて、蛍は途方に暮れる。それはもうチョーゼツ暮れちゃってる。

いや、蛍だけじゃない。白山さん以外全員暮れちゃってる。


「私からもいいですか?」

いや、誉ちゃんは違った。


「私の師匠である迷先輩も、抜けてるし、すぐ道迷うし、おっちょこちょいだし」

一旦言葉を切った誉ちゃんは、真っ直ぐ石川くんを見た。


「でも、世界で一番ここにいる全員のこと想ってるんです」


予想外の言葉に魔女は目を丸くした。


「親とか他の友達とか、みなさんのこと大切にしている方はたくさんいると思います。けど、このメンバーが一緒にいることを大切に想ってるのは、先輩が世界で一番です」


この上なく恥ずかしい話だった。


「何年経っても、どんなに普段離れていても、みなさんがいるこの時間が大好きなんですよ、バカみたいに」

「誉ちゃん」

「そんな人が頼まれた事で下手なことすることなんて、できるわけないじゃないですかっ!」


その言葉に迷がぎゅっーと誉ちゃんを抱きしめる。


「…蛍先輩、ここらでストーカー話するべきじゃないですか?」


白山さんが蛍を見た。そのときになって、なんとなく白山さんの言わんことが分かった。


蛍は正真正銘みんなのストーカーだ。けど、ストーカーだから分かることもある。


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