魔王木村と勇者石川


「ちなみに、変わったところとは」
 
「緑が少し増えましたね。まあ、前の前の魔王の海裡さまのときは、日本庭園みたいなのがでーんとありましたので、少しだけ緑が戻ったとも捉えられますが。」
 
 
なるほど。ところどころに、要塞然とした城には明らかに不似合いな愛らしい花や、青々とした柔らかな雰囲気の木々が風に揺られている。
 

と、突然白山がしゃがみ込んだ。
 
「あ、いちご」
 
小さく呟いて、すぐに何をつまんで振り返る。
 

「食べます? 今の魔王さまになってから、こういう可愛いのも生えてくるようになったんですよね。」
 
白山の指先で摘まれていたのはいちごである。
 

「そうか、よかったな。そして俺は食べない。」
 
「そうですか? あ、着きましたね。こっから中に入るんで足もと気をつけてください。」
 

いちごを口に放り込んでから、目の前に現れた扉を開く。

 
なるほど。絶妙な薄暗さである。

歩くぶんにはなんとかなるが、探し物にはもちろん向かないし、走るのも危険だろう。

なにせ、一寸先は闇、ならぬ1.5m先は闇なのだ。

1.5mも離れれば、石川から白山は見えなくなる。
 


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