魔王木村と勇者石川
「よくこんな所で生活ができるな」
「ああ、我々は夜目がきくので。省エネ設定でこうなっています。なにせ、明かりは人力、まあ、手作業でつけるので。」
めんどくさいんです、と付け足す白山。
まあ、白山がこう言うのも仕方の無いことだろう。
本当にめんどくさいのだ。
明かりが欲しければ、地下に備えられている部屋で、備え付けの自転車──トレーニング用みたいなアレ──に誰かが乗って延々と漕ぎ続ける必要があるのだ。
ちなみに、漕ぐのをやめると5分以内に明かりが消えることになっている。
これは余談だが、先代魔王の時は自転車ではなく、ひたすらそこにあるプラモデルを組み立て続けるというものだった。
手順が狂ったり作業が雑だと明かりがつかない、あるいは消えるというオマケつきだ。
ちなみに、先代のさらに一つ前は写経だったらしい。
もちろん、誤字脱字は明かりがつかない原因になる。
魔王城で働く魔族たちはみな、この作業が苦手、あるいは嫌いである。
したがって、省エネ設定と言って、この作業から逃れているのだ。
実際、彼らの活動に支障は出ていないので問題は無いらしいが。
とにかくそんなわけで、魔王城の明かりはいつでも省エネ設定である。
歴代勇者はライトの魔法か懐中電灯を持って歩いていたという伝説はこのせいである。