魔王木村と勇者石川
「じゃあ、こっから自分の部屋まで、何があっても真っ直ぐ何もせずに帰るんだよ、だよーん」
「ん。蛍さんの部屋で今日は最後だったから、そのつもり」
「えっ」
魔女の蛍は振っていた手を止めた。
「___今日は?」
木村がびくりと肩を震わせる。
「………もしかしてなんだけどさ」
「………」
「違ってたら別にいいんだよ」
「………」
「でも、もしかして」
蛍は思いきり息を吸い込むと、決意したように、木村を見た。
「これまでも徘徊してた?」
「………なんか、ごめん」
休めっ!
と言っても器用貧乏の木村には無理な話だ。
途方に暮れた蛍はふと思い出した。
「………木村くん、魔王城の七不思議って知ってる?」
「えっ、あーうん。………確か夜中に笑い声が聞こえるとか」
「そうそう………深夜歩き回る人影とかとか」
そう言ってお互いチラリと相手を見る。
お互い相手の噂は相手だと分かっているのに、自分が元の噂の方は全く身に覚えがないバカさ加減。
「………寝るか」
「寝よう、寝よう」
そして、相手にそれを指摘する勇気のないヘタレ加減。
木村は蛍さんが楽しいのだったらいい、と思い、蛍はせめて木村に安心して気を休められる友達が居ればと思うのであった。