魔王木村と勇者石川
再び叫び声を上げて帰ってきた白山さんに、蛍は前が見えるなら飛びつきたかった。
「もう来ちゃったのののののよね?」
「はっはい。もう扉の前にっ」
「だって、木村くんっ!」
「はくしょーん」
………そのやる気のないくしゃみは返事なのか?
蛍はそう思って首を傾げた。
しかし、この状態だと花粉症の木村くんは死んでしまうのではないか。
「まっまず換気しないと」
蛍は木村くん救出のため、窓に辿り着くべく、さ迷う。
「イタッ」
「あっごめん、鶴野くん___」
謝ろうと思って、思いっきり何かを踏んで転ぶ。
「私の根っこ、誰か踏みませんでしたか~」
「ごっ、ごめん。水谷ちゃ……イタッ」
「わっ、すみませ~ん。もしかして球根当たりましたか~?」
「かも」
「だっ大丈夫ですか?」
鶴野くんの声と共に、差し出された手。蛍は迷わずそれを掴んで、後悔する。
ぐにょん。
「あっ、すみません。今、手が料理で汚れていて」
「…うん。気にしてないよ」
そうウソぶいて、バチが当たったのだろうか。
「わっ!」
その手がベトベト過ぎて、立ち上がろうとした瞬間、握った手はすり抜けて、私はまた転んだ。
「グエッ」
「えっ…?」
気のせいだろうか?
水谷ちゃんの声でヒキガエルが鳴いた。
「よっ、避けてくださ~い」
いや、正真正銘水谷ちゃんだった。
「本当、ごめん。もうほふく前進で行くよ」