魔王木村と勇者石川



「そうそう、そうなんだよ。焦ろう?だから雑巾置こう」


そう言って蛍が雑巾を取り上げようとしゃがむと、木村くんはひょいっと避ける。

蛍ののばした手の少し上に雑巾が移動していた。

蛍は意地になってそれにもう一度飛び込む。


ひょいっ

「くそうっ」

ひょいっ

「なんでっ」

ひょいっ、ひょいっ、ひょいっ………

「なんでーーーっ⁉」


マイペースなのに、こういうところは素早いというか、なんというか。

それに、この蛍の一生懸命に取ろうとしているのを自分で避けておいてだ。


眉間を寄せて、

「ごめん、あとちょっと………」

と、本気で謝ってくるんだから、ムカつくくらい


___かわいいな、この野郎~~っ。


仕方がないな。



「分かった。その可愛さに免じてあと三秒待ってあげよう」



「えっ!そこは三分待ってやろう、じゃないんですかっ」

「何言ってんの。そんなに悠長に待ってる悪役はさ、目が潰れちゃうんだよ?

「うっ、確かに」

「それにね、白山さん、これは愛の鞭、むち、むちだよ」

「飴はどこに……」


白山さんが遠い目をする。


「あと三秒」

「…蛍さん、鬼畜」

「魔王にそんなこと言われたかないね」

「えー」

なぜ、そこで照れるんだ。木村くん。魔王って言われたのがそんなに嬉しいのか?

悲しいやつだな。

「って、冬城。何本なんかっ」

「………」

「あー、うん。さっきからあんな感じなんだよ。あの騒ぎの中で本読み続けるって、ある意味尊敬だよ」

「ですね」





「ってことで、木村くんあと一秒ね」




< 53 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop