魔王木村と勇者石川
「そうそう、そうなんだよ。焦ろう?だから雑巾置こう」
そう言って蛍が雑巾を取り上げようとしゃがむと、木村くんはひょいっと避ける。
蛍ののばした手の少し上に雑巾が移動していた。
蛍は意地になってそれにもう一度飛び込む。
ひょいっ
「くそうっ」
ひょいっ
「なんでっ」
ひょいっ、ひょいっ、ひょいっ………
「なんでーーーっ⁉」
マイペースなのに、こういうところは素早いというか、なんというか。
それに、この蛍の一生懸命に取ろうとしているのを自分で避けておいてだ。
眉間を寄せて、
「ごめん、あとちょっと………」
と、本気で謝ってくるんだから、ムカつくくらい
___かわいいな、この野郎~~っ。
仕方がないな。
「分かった。その可愛さに免じてあと三秒待ってあげよう」
「えっ!そこは三分待ってやろう、じゃないんですかっ」
「何言ってんの。そんなに悠長に待ってる悪役はさ、目が潰れちゃうんだよ?
「うっ、確かに」
「それにね、白山さん、これは愛の鞭、むち、むちだよ」
「飴はどこに……」
白山さんが遠い目をする。
「あと三秒」
「…蛍さん、鬼畜」
「魔王にそんなこと言われたかないね」
「えー」
なぜ、そこで照れるんだ。木村くん。魔王って言われたのがそんなに嬉しいのか?
悲しいやつだな。
「って、冬城。何本なんかっ」
「………」
「あー、うん。さっきからあんな感じなんだよ。あの騒ぎの中で本読み続けるって、ある意味尊敬だよ」
「ですね」
「ってことで、木村くんあと一秒ね」