魔王木村と勇者石川
予想以上の展開に、蛍は興奮しつつ、石川くんの顔をどアップにして、台詞を待ち構えた。
渋い顔をした石川くん。
たくさん言いたいことがあったようだが、その全てを飲み込んで、
「…別に?」
そう強がった……!
その“別に”に含まれる、“なんでお前は平気なんだよ”。
木村くんはますます不可解そうに眉をひそめている。
が、重いと素直に言えたなら、それは石川くんではない。
それに、本当ならこんなもの要らんと迷にリュックを返したいんだろうが、本当は優しい石川くんの性がそうするのを邪魔する。
石川くんの手に取るように分かる心情。
蛍はまた魚になってしまいたかった。
床に転がって、ビチビチと悶えていたい。
魔女二人に騙されるなんて、石川くんはなんて可愛いんだろう。
ダメだ。動画回してるのに蛍の汚いた笑いがこぼれてしまいそう。
そんな蛍をまるで見てない石川くんが、何とか立ち上がる。
そして、フラフラしながらも絞り出すように言った。
「ほら、行くんだろ」
一生懸命に作った涼しい顔。
しかし、この重さで数日歩くことを想像している石川くんの表情ははっきり言って重い。
リュックの重さに比例して、重い。
それに同じく気づいた迷が、振り向いて蛍を見る。確認するような表情に蛍は頷いて見せた。
これ以上の意地悪はさすがに蛍も迷も胸が痛い。