魔王木村と勇者石川
「お前、一人で行くのか?」
驚いたように、あるいは訝しげとも取れるような声音で石川くんが言った。木村くんのほうを向いている石川の表情は、こちらからはわからない。
「えっと、うん。石川も後からゆっくり__」
「いや、ダメだろ」
「えっ………」
「だから、ダメだって言ってんだろ」
強く言う石川くんに、木村くんは困ったような表情でどうしたものかと戸惑っている。
「俺も行く」
「でもっ」
「“でもっ”じゃねーよ」
石川くんが木村くんの胸ぐらを掴む。自転車がその側で音をたてて倒れた。
そんな二人に誰一人動かない。
いや、動けなかった。
王の間にあったでかい時計の秒針の音が、今まで意識したこともなかったのに、とても大きく聞こえた。
しかし、それは永遠のようで一瞬だった。
「………べつに、心配してるわけじゃないが、お前ひとりだと何かと大変だろう」
石川くんの声が静寂を切り裂くように王の間に響いて、木村くんが目を見開くのが分かった。
蛍も木村くんと同じく驚いて、そして目を閉じた。
ああ。
これが私たちと石川くんの違いなのだと。
私たちは木村くんの役に立てない不安を抱いていただけだ。
けど、石川くんは単純に木村くんの心配をしていた。
私たちの自己満足したいがための想いと、石川くんの単純に木村くんを想って言ったこと。
それには、天と地ほどの違いがあって。
やはり、石川くんがここに来てくれて良かったと素直にそう思った。