同居人は国民的アイドル
リビングに入ってきた廉くんを見ると、黒のキャップを目深に被り、大きなマスクをしている。
「あ、えと…………どこか出かけるの?」
何も言わずに出て行こうとする廉くんの背中に声をかける。
「仕事」
振り向きもせずに廉くんはそう応えると、ほんとに出ていってしまった。
何か無愛想な気がするのはきっと気のせいじゃない。
テレビで見る廉くんとはあまりにも違いがありすぎる。
朝が弱いとかかな。
バタバタしてて疲れちゃったとか?
…………そう思うことにしよう。
私が今いろいろ思ったって、何も変わらない。
「…………私も学校行こっと」
小さくひとりごとを呟いた私は、廉くんの後を追うように家を出たのであった。