無意確認生命体
3.
で、その日の昼休み。しかして事件は起こったのであった。
「な、な、近江!おーみ!」
四限目の授業が終わり、お昼の準備をしていた私は後ろの席の男子に肩を叩かれた。
「ん、なに?」
私は呼びかけられた方に向き直る。
すると、弁当片手に机から身を乗り出している、人なつっこそうなにんまり顔の男と目があった。
彼の名は柏木修《かしわぎしゅう》。
二年生に進級し、ひと月と経っていない今、私はまだクラスメイトみんなに馴染みがあるわけではなかった。
でも、たまたま名簿で席が前後同士だったからか、この柏木くんとはこれまでにもちょくちょくと話すことがあった。
また彼自身、とても気安い性格なようで、「忘れ物をした」といっては平気で初対面同然の私や隣の席の子からノートなんかを見せてもらったりしていた。
なので、私はまたいつもの何気ない用事だと思っていた。
ところが、なんだか今日は調子が違ったらしかった。
「弁当、一緒に食わねぇ?――ふたりで」
「……は?」
それは私にとって、全く予期せぬ言葉だった。
「えーっと」
私は返答につまった。
当然だ。
何せ私にとって今のやりとりは、ファミレスでハンバーグを注文したらタワシが出てきました、ぐらいに理解不能なことだったんだから。
「……え、な、何で?柏木くん、いっつも平西くんとか東堂くんと食べてるでしょ?」
頭《おつむ》のそんなによろしくない私《ワタクシ》であっても、さすがにこんなあからさまな誘いをしてくる彼の思惑はわかり切っていたが、一応あがいてみた。
「あ~、あのさ。今日はちょっと……やめたんだ。近江と、ゆっくり話したくってさ」
瞬間。私の中で誰かが叫んだ。
『アウトーッ!』