無意確認生命体

下り坂の方が、足に掛かる負担は大きいらしい。

学校についたとき、私の両足はそれを身をもって教えてくれていた。


ひ……ひざが、わらってるよ、ちきしょう。


自分の席でぐったりしながら、時計を見る。

8時15分。ははは、いつもより5分も早いじゃねーか。このやろぉ……。

朝からの湿度の高さが相まって、うっとおしいこと暑いこと。

私の体からは蒸気が立ち上り、後ろの席からそよいでくる風に揺られていた。

「大丈夫? 近江さん。湯気でてるよ湯気。どうしたの? 寝坊……にしては全然間に合う時間に来たけど」

ごめんなさい、浅瀬さん。

私に今喋る余力は残されていません。

それと、下敷きであおいでくれてありがとうございます。

それ、めちゃくちゃ気持ちいいです。



私は水筒を取り出すため、鞄を開ける。

とにかく水分を採らなければ、喋ることすらままならない。

そして鞄を開けて気付く。


そういえば水筒を入れた覚えがない……。


――あ! ……そうだ。

氷とお茶を入れて、台所の流しのところに置きっぱなしだった……。



…………。



やばい、泣きそうだ。


そして鞄の中に、水筒がない代わりに、妙なものが入っていることに気が付く。


――あれ……?

……なんだこれ。

……あ、あぁ~。

懐かしいな、コレ。


鞄にケースごと強引に押し込まれていた「それ」は、中学の頃に使っていた縦笛だった……。

でも、なにゆえこんなものが……


――あ。


そして思い出した。

この縦笛がぶら下げてあった壁掛け。

そのすぐ隣りに、折りたたみ傘がぶら下がっていたことを――。

「近江さん、それなに? ……リコーダー? そんなの、今日いるんだっけ?」

後ろから声を掛けてくれた浅瀬さんに嗄れた声で半分泣きながら事情を説明し、とりあえず私はお茶を恵んでもらった。

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