無意確認生命体

「おう、よちよち。かわいそうだったね、しぶちん。ほら、ママのミルクを飲んで、元気をお出し」

そう言って、購買横の自販機で買ってきた、飲みかけの牛乳パックから伸びたストローを、私の口の前につき出してくる美智。


私より遅れること10分。

登校してきた美智は、現れて早々に私の異変に気付き、駆け寄ってきてくれた――かと思ったら、事情を浅瀬さんから聞くなり、爆笑して、こんな感じの扱いに切り替わってしまったのだった。


「ぷっ! そ、その言い方のほうが可哀相だよ辻ちゃん」

そのさまを見て笑いをこらえている、浅瀬さん。

それでも、虫の息に近い私は、美智がつき出したストローを素直に加え、そのまま吸い込み、胃に冷えた牛乳を送り込む。

「ううう……。自分で自分が情けないよ……。縦笛と傘、普通間違える? ……馬鹿じゃん私。いくら慌ててたからって、なんで気付かなかったんだろ……。おまけに朝から無駄に走ってこの醜態。……これで放課後、土砂降りとかになってたら……もう、目も当てらんないよ……」

自分の間抜けを呪う。

そして、話すうちに胃から込み上がるものを感じて、背中を丸める。

「……うぶ、……気持ぢ悪い……」

「うお! う、生まれるか!?」

「近江さん、保健室行く? それとも、トイレが先?」

「……無理。今……うごいたら、途端に吐きそぉ……」

「げっ!」

「ちょっ! 駄目だって! もうちょっと我慢して? 肩貸すから! 辻ちゃんも!」

「わかってる!」

私は両の肩をふたりに支えられ、なんとかトイレまで、込み上がって来るものを抑えきった。

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