無意確認生命体

「美智。それに先生。え~っと……、一体いつからいたんですか?」

「いつから? なに言ってんのよ。あたしたちは始めっからどこにも行ってないわよ? アンタは起きないし、そっちのカレ……志田クンは読書に没頭してて忙しそうだったから、手のあいてる辻に、さっきまでこっちで仕事を手伝ってもらってただけよ。アンタが起きたみたいだったから様子を見に来てみれば……、どうやらアンタたち、勝手に二人っきりだと思いこんで、何だか初々しい会話に花咲かせてるみたいじゃないの。だからあたしたちは邪魔しちゃ悪いと思って、そ~っと静かに聞き耳立てたりしてたのよ」

「くっそー! もうちょっと待ってりゃ生本番が始まってたかもしんないのにー! しぶちんのあまりのウブさに、笑いがこらえきれなかった! 勿体ない! そこら辺しっかりカバーしろよ~志田~!」

「ん? なんか知らんが、すまん。期待にそえなかったらしい」

「志田、謝らなくていい。そんな悪魔の期待はむしろ裏切るのが正義だ。美智め……朝の気弱さはどこへ行った」

志田は私の嘆きを聞くと、

「ん? ツジってのは、こーいう奴だ」

なんて、本人を指さして言い切った。

「あ! そういや志田! あたしを会話のダシに使ってたね。どういう意味だアレ! あんな言い方じゃ、まるであたしがハタ迷惑な生き物みたいじゃないか!」

「ん? そのまんまだろ?」

と、ここでまたいつもの余計な一言により、美智のみぞおちグーを『ごすっ』と食らう志田。

「まったく! この男はけしからんな! それに比べてしぶちん、アンタは可愛いね~。望みはあたしに尽くして尽くすコト? 一番見たくないものはあたしの涙? ……え? ナニこれ。ひょっとして愛の告白? ゴメン! こんな馬鹿じゃなくて、はじめっからアンタの狙いはあたしだったんだね? アンタの気持ち、気付かなかった!」

うん。確かにそれは私も気付かなかった。


ふふ。そうだね……。

そうだったよ志田。

美智ってのは、こーいう奴だった。


「そうだったのか? すまん雌舞希。どうやらオレは余計な助言をしてしまったらしい」


あー……。

そしてあんたはこーいう奴だった……。


私は志田の頭にズベシーとチョップをきめた。

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