無意確認生命体
「――ね、しぶちん。あたしも昼からサボって自転車で家まで送ってこうか?」
まぁ美智ならこのぐらいしようとしてくれるだろうと思っていたので、私はそれほど驚かなかったが、次に私が彼女に返す答えは、美智にとって予想もしていないものだっただろう。
「ちょっと、駄目だよ美智。持田先生の前でサボり宣言なんて」
返した答えは耳打ちではなかった。
私はわざと先生に聞こえるよう、普通のボリュームで、そう返答したのだ。
私を見て、美智はポカンとしている。
それは当然と言えば当然だった。
私は今まで一度だって、例え冗談でも、こんなふうに美智をハメるようなマネはしたことがなかったんだから。
持田先生も突然こんなコトを暴露する私を見てポカンとしていた。
ただひとり、志田だけは私がしたことの意味を理解していて、面白そうな顔でこっちを見ていた。
「コラ辻! いつの間にそんな算段してたの? アンタは無駄に健康そのものでしょうが。欠席理由は何かしら? それを教えてもらえないと、帰らせるわけにはいかないわよ」
「ぅげ! え、えっと、えーっと……。い、一身上の都合です」
「ハイ却下。近江。志田クン。コイツサボらないように、ちゃんと見張っておきなさいよ」
「はい」
「わかりました」
「んなっ!」
誰も味方がいない美智。
なんか、すっごいむずむずするなぁ。
「さぁ、そんじゃB組に行こうツジ。雌舞希のカバンやらを取ってきてやらないとな」
志田はそう言うと、右手にはさっきの文庫本、左手には愕然としている美智の首根っこを掴み、半ば引きずるように保健室を出て行った。