無意確認生命体
残されたのは私と持田先生。
「……近江、こんなの教師が言うことじゃないけど、なんでわざわざ、あんな辻の厚意を売るようなマネしたのよ? アンタってああいうジョーク、好きな人間じゃなかったわよね?」
私のちょっと不安げな顔を見て先生は言った。
「はい? あ。あはは……、えっと。さっき先生、志田くんと私が話してるの、聞いてましたよね? あーゆうことです。人間、大事なものをふたつは取れないものなんですよ。――とくに、私みたいなぶきっちょな奴には」
「……ふぅ~ん。へぇ~。初々しいこと言うね~」
「まぁ、これでも先生より、ひとまわりは若いですから」
「近江、そのプリント返しなさい。元気なようだから早退は取り消してあげるわ」
「すみませんでした。もう言いません」
私は先生と軽口を叩きながら、美智たちが戻るのを待つ。
今朝から私を包んでいた焦燥感が、少しだけ晴れるのを感じた――。