無意確認生命体
29.
保健室に戻ってきたのは、美智ひとりだけだった。
美智が言うには、なんでも志田は私の帰り支度を彼女とふたりで済ませた後、さっきの官能小説を示して、
「これ参考になるからじっくり読んでみたい。借りていいか?」
と、言ったという。
その本は、美智が図書室から持ってきたものだったらしく、突然そんなことを言い出した志田に美智は、
「借りたかったら自分で勝手に貸し出ししてもらえ! この無神経! そんなもん読んでる場合じゃないだろ馬鹿!」
ってな感じで罵倒して、そのまま置いてきてしまったらしい。
そして、どうやら志田はそのまま図書室へ行ってしまったらしい。
美智の後を追わず、ここにいないのがその証拠だろう。
「まったく! 前から鈍い野郎だとは思ってたけど、こんな時にエロ小説借りたいなんてバカなこと言い出すとは思わなかったよ! 正直、ちょっと見損なった。イイ奴だと思ったけど、所詮アイツも柏木とおんなじ穴のムジナか……。ね~、しぶちん?」
「え? ……う、うん」
「うわ! そ、そんな落ち込むなよ! ……えーっと。あ、そうだ! ここにアンタの意中の相手、あたしがいるでしょ! あたしはいつでも一番にアンタのこと考えてるって!」
どん、と胸をはる美智。