無意確認生命体
私が平静を装ってどうにかごまかそうとしているってのに、美智は途中で割り込んできて余計な"こっちの事情"を漏らしてしまった。
「あら? それじゃ辻。その事情とやらを聞かせてもらってもいいかしら?」
「んぇ? ……あ、あぁっ! い、いえ、何でもないんです! え、えと。とにかく、これはしぶちんがウブとか内気とか、そういう問題じゃないんですよ!」
当然、興味を持った保健医と、私のどんよりした視線で、自分の失言にやっと気付き、なんとか取りつくろおうとする美智。
ヤブヘビだろ、それじゃあ……。
……まぁいいか。
この話は教師なら知ってるものだろうし。
「美智、もういいよ」
私はそう言って美智の目の前にてのひらをかざして制する。
「――あの、先生。5月の連休明けに2年B組の教室が荒らされていて、全校集会が開かれたの、覚えてますか?」
「ああ、うん。確か女子生徒が中年に襲われたとかなんとか、そんなハナシだったわよね?」
「その被害者の女子生徒っていうの、実は私なんです」
淡々と答えた私の顔を見つめながら、持田先生は表情を驚愕に染めた。
「えっ! そうなの? 柏木は?」
これは美智だった。
美智は真相は知らないものの、柏木が犯人だろうと目星をつけていた。
あの事件は教師には捏造された志田少年武勇伝が伝えられてはいるが、そのことは生徒たちには何も知らされていない。
だから今の中年犯人説は初耳だったようだ。
「だから、それは美智の誤解だって、何回も言ったでしょ? 柏木くんは関係ないんだってば。先生が言っちゃったから、もう話すけど、あれは部外者にやられたんだよ」
この言い方じゃあ、柏木をかばっているようで癪だけど、今は仕方ない。
「ちょっと近江! ソレ本当なの? ……そういえば、アンタ……今年はB組だって言ってたわね」
「……はい。正確には、なんとか未遂で済んだんですけど……。まぁ、そんなことがあったばかりなんで、男の人のそういう性的な一面を見ると、ちょっと引いてしまうって言うか……、恐いんです」
「そ、そうだったの……。悪かったわね、近江。それは、確かに。辻の言うとおり、事情を知りもしないで偉そうなこと言えたものじゃ、なかったわ。謝る。ごめんなさい」