無意確認生命体
「すみませーん! 先ほどお電話させていただきました、白古馬都《しらこばと》高校の持田ですがー! どなたかご在宅でしょうかー!」
私が中に入っておばぁを呼んでこようと靴を脱ぎかけた矢先、遅れて入ってきた先生は家の奥に向かって大声で呼び掛けていた。
それに「は~い」と、おばぁが居間から声を返してくる。
「そういやアンタってお婆ちゃんと住んでるのね。さっき学校から電話したときも出たの、今の人だったわ」
「もー、びっくりしますよ。そんなふうに声張らなくっても、私が中に入って呼んできましたのに。……そうですよ。ちょっと事情があって、私と祖父母の三人暮らしなんです」
「……ふーん、そうなの。……なんか、アンタもいろいろ苦労してんのねぇ」
私のもの言いに何か感じるところがあったのか、先生は労ってくれた。
私はどっちかと言うと、おじぃやおばぁに苦労を掛けている立場だと思うが……。
「あらあら先生。わざわざありがとうございました。しぃちゃん、大丈夫? 熱が出たって聞いたよ」
ほどなくして、おばぁが玄関まで出てきた。
「うん。もうほとんどなんともないよ。えへへ。さっきまで保健室で休ませてもらってたからね」
「まぁ、そうだったの……。先生、どうもありがとうございます」
「いえいえ。私はベッドを貸してあげただけですので。――近江、病み上がりなんだから、無理はしないようになさいよ」
「もう。それはわかりましたってば」
「本当かしらね~? お婆さん、この子見張っておいてください。油断すると、すぐ無茶しようとしますから」
「ふふふ。はい、わかりました先生」
ひどい言われようだな……。
私は小学生か……。
「――それでは、私はこれで失礼させていただきます」
そう言い残して先生は玄関から出て行く。
気付けば、外はしとしとと雨が降りだしていた。
「……うわ。とうとう降ってきたか~」
先生は外に出て、玄関の開き戸を閉めながらぼやいていた。