無意確認生命体
もちろん現在の私になら、ふたりがなにをしていたのかなんて、説明されるまでもない。
……だけど当時の私が、そんなこと知っているはずもなかった。
なにをしているかはわからなかった。
けど……それでも、母がそのせいで泣いているのは、苦痛を感じているのだけは、小さかった私にも理解することが出来た。
でも私は恐ろしくて、中に踏み込んで母を庇うようなマネは出来なかった。
気付かれぬようおそるおそる後ずさり、自分の布団まで駆け戻って眠ったふりを決め込んでしまったのだった。
母が泣いているのは見たくなかったし、その「夜の儀式」は、なんだかすごく恐ろしいもののように感じられたので、いつしか私は、たとえ夜に目が覚めて襖の向こう側から声が聞こえてくることに気付いたとしても、決して覗かないようになっていった。
ジンクスとか、おまじないとでもいうのだろうか。
そういうふうに私が朝までぐっすり眠っているようにしていれば、起きたときには父も母も笑っていてくれるのだと、勝手に自分に言い聞かせるようになっていたのだ。
もちろん、そんなおまじない、実ったためしはなく、朝になれば父はいつもと同じように母を罵って仕事に出かけていくだけだった。
母はそうやって共に過ごす時間が増えるにしたがって、少しずつやつれていく様子だった。