無意確認生命体

――ある日。

父が仕事に出かけた後、母が私に言った。


「ねぇ雌舞希ちゃん。あなた、ゆうべ起きてきて、お母さんたちのところへ来なかったかしら?」


それを聞いた私は全身が震えた。

見てはいけないものを見てしまった私を、母は断罪しようとしているのだと感じられた。

この頃の私は、おまじないを順守するようになっていたので、その前の夜に覗きになんか行っていなかった。

寝かし付けられていた布団から出ることさえもなかったのだ。

私はその通り、


「行ってない。ずっとおふとんで寝てたよ」


と答えた。

だけど、当時から私は気の小さい子供だったので、その顔には動揺がはっきりと出てしまっていたらしい。

私の顔を見て、母は青ざめてしまったのだ。

……私はてっきり、怒られるものだとばかり思ったが、母は予想を裏切ってこんなことを言った。



「これからは、『ソレ』をよく見ておきなさい。……いい? 雌舞希ちゃん。あなたは他の人より、ああいったコトに詳しくなくちゃいけないの。周りは怖い人でいっぱいなのよ。あなたをあんなふうに、……お母さんがされてるようなことをしてやろうとする人が、いつか必ず現れる……。だから、いつも周りには注意しておかなくちゃならないの……。お母さんとお父さん、夜はいっつも『アレ』をやっているから。もし、また目が覚めてしまったら、その時はよく見ておくのよ。わかった? ――あなたは、常に危機感を持って生きていかなくちゃならないのよ」



……それは怒ったふうでも、嘆いたふうでもなく、例えば、そう。

テレビやなんかの中で「宿題はきちんとすませるように」とお母さんが子どもをたしなめる時のような、いかにも母親らしいそぶりだった。

< 150 / 196 >

この作品をシェア

pagetop