無意確認生命体
美智は他人の痛みを我が事のように感じられる性分だ。
だから友達も多いし、人徳もある。
しかし、その性格のためにこの子は余計なことまで自分のことのように背負い込んでしまう。
特に、私には理想を重ねる自責があるからなのか、私の近辺で良くないことが起こると、過剰に傷ついてしまうのだ。
私は美智に泣いてほしくない。
私なんかのために自責の念を感じてほしくない。
今回、私がはめられたのは私の油断のせいだ。
過剰な性欲を持っている、性欲を優先する男の絶対数を私が計り損なっていたからこんなことになった。
お母さんが言っていたじゃないか。
「常に」危機感を持てと。
「アイツ」は特殊じゃなく凡な存在だったんだ。
そこを勘違いしていた。
馬鹿なのは私だ。
私こそ馬鹿!
こんな体なのに!
他人よりよほど、ああいった連中に気をつけなくちゃならないっていうのに!
危うく、お母さんを裏切るところだった!
その上、美智まで泣かせてしまった!
馬鹿だ! 馬鹿だ馬鹿だ!
「ごめん。ごめんね。ごめんなさい、ごめん。ごめっうああ、うあぁぁ……」
「な、なんでアンタが謝るの! 悪いのは柏木でしょ? ねぇ! 雌舞希! ねぇ!」
「美智は、わるくない、わるくないから! ごめん……ごめん……」
馬鹿な私が泣きながら謝るのをやめなかったので、美智は泣かずにいてくれた。
自分を責めることを口にするのをやめてくれた。
やっぱり私は馬鹿だ。
こんなことしたら、美智は結局ますます気に病むだけだって言うのに。
右手に持ったカップの中のミルクは、とっくに冷めてしまっていた。