無意確認生命体
この家に私の両親はいない。
父方の祖父母が親代わりとして私を育ててくれている。
おじぃとおばぁには本当に感謝している。
何せ二人とも年金暮らしの老夫婦だ。
昔の蓄えが多少あるって言ったって、お金に余裕があるわけでもないだろう。
おじぃの財産なんて、せいぜいこの平屋の一戸建てぐらいのものだろうし。
中学まで私を養うのだって大変だったはずなのに、高校にまで行かせてくれた。
私は中学を出たら働くと言ったが、
「今日び、いくら豊かになったっていっても高校も出てない女のコぉが働けるところなんて、ほとんどないでしょ。高校ぐらい行きなさいな。おじぃもおばぁもそれが一番ありがたいよ」
とかなんとかいって、押し切られてしまった。
この分じゃ高校を卒業した後は、大学の面倒までみようとしそうだ。
……そうなったら今度こそ絶対断ろう。
朝食をこしらえ、居間へ運んでいく。
この頃にはおばぁも起きてきていた。
「あ、しぃちゃんおはよう。おじぃ、今日病院行くんだって」
「うん。さっき聞いたよ。そういや、もう月末だったね。私も忘れてた」
私がそう言うとおばぁの顔が少し陰った。
「何か伝えておくこと、ないぃかい?」
おじぃが聞く。それに私は、
「ううん、ないよ」
と、短く答え、
「あ、そうだ。おじぃ、食器用洗剤がね、そろそろ切れそうなんだよ。病院の帰りによかったら買ってきてよ」
無理矢理に話題を変えた。
その話題はしたくない、という私の意思表示だった。