無意確認生命体
15.
骨折なら、瞬間の痛みは激しくても、安静にすればすぐに完治する。
しかし癌なら?
じわじわ後から効いてきて、気付いたときにはもう遅い。
私はボコボコに歪んだ自分の席について、後ろの柏木と向き合っていた。
「昨日のこと、バラしたら、どうなるかわかってるよな?」
これは当然柏木だ。
さっきまで屍のようだった柏木は、不健康な病人ぐらいには回復していた。
どうやら私なら、強気に出れば屈するかもしれないと思ったんだろう。
だけれど、こいつは勘違いしている。
私だからこそ、屈するはずがない。
まぁ、そんなことはこいつには関係ないことだ。
今はそうやって勘違いしていてくれた方が大いに助かる。
その方が効果が増すというものだ。
「ええ。誰にも話してないし、話すつもりもないわ」
私はわざと、普段使わないような、漫画の登場人物みたいな優雅な口調で答える。
「あ? 辻に話してんじゃねぇか! おい、さっきだってな、なんかみんな俺のこと怪しんでたんだぞ! ふざけんなよ!」
実際、首謀者なワケで、ふざけるもくそもないと思うが。
「美智にだって、私は話してないわ。きっとボロボロになっていた私や私の机なんかを見て、あの子が思い込みをしただけよ。美智って他人想いな子だから。現に、昨日いた他の人たちには何も言わなかったでしょ? 休み前、私たち一緒にお昼を食べていたものね。勘違いしても仕方がないわ」
相手の動揺を誘うため、無駄に丁寧な口調を使っているが、自分で言ってて気持ち悪い。
「あ、あぁ……そぅ……か」
冷静な私の言葉に、納得せざるを得ない柏木。
――そして私は爆弾を投下する。