無意確認生命体
「後のほう。近江、雌舞希」
「へー。なるほど。その名札さ。フリガナふってあるから読めたけど、オレ"おうみ"ってのも最初、読み方わかんなかったんだよ」
私が座っている椅子を指さしながらこんなことを言う志田。
それは読めるだろう!
名前の"しぶき"はともかく。
「ちなみに、『しぶちん』は呼び方としてNGだから。これはあたしのような仲良しさん専用の呼び名なので!」
「じゃ、雌舞希?」
「ちょっとアンタ! 馴れ馴れしいぞオイ!」
私もそれは思ったけど、"あんたが言うな!"
「なんでもいいよ私は。じゃあこっちは? どう呼ぼうか。志田くんでいい?」
「あー、"くん"ってのやめて。何か嫌いなんだよ。呼び捨てでいい。オレもすでにそうしてるし。なんかさー敬称って上とか下があるみたいじゃん。やなんだよオレ、そうゆうの」
お、何かその価値観は好感もてるね。
「ふーん。じゃあ、志田由高、で?」
「ん、いいよ」
「おいコラー! しぶちんがせっかくボケてるのに流すな! つーか、も、いいじゃん。こんなヤツ、志田で」
美智、そこでフォローされると余計恥ずかしい……。
しかも決められた。最終決定されちゃった。
「ん。そだな。それでいいよ。短いし。そういう敬称とか性別とかで区別されんの、あんま意味ないだろうし」
「でもヒトの名前覚えるの苦手なんでしょ? 区別とか、それ以前の問題じゃん」
「おい志田! あたしの名前を言ってみろ!」
「ツジだろ?」
「名前!」
「……えっと……。ごめん、忘れた」
早っ!
私がさっきから呼んでるのに!
しかも今、結構長考したぞこいつ!
「えっと……。四文字ぐらいだっけ?」
「……しぶちん。こいつ、殴っていい?」
「や。美智、それはやめてあげよう。一応怪我人だし。それにこれ、多分マジだから」
私はさりげにヒント(というか答え)を口にしたが……、
「あ! オウミシ!」
彼は惜しくも聞き逃し、私の呼び名候補(没)を答えとした。
かくして、美智のグーが志田少年のみぞおちに捻り込まれたのであった。
はは、なんだかなぁ。