無意確認生命体
本当はさっきボーッとしていた理由に、何となく気付いていた。
最初ここに来て、誰もいなくて、自分が落ちた場所を眺めていたとき、私はあの日のことを思い出してしまっていたのだ。
そしてあの日、もっとも恐怖した、あの左手の主の声を聞いた瞬間、私は何故だかすごく安堵させられて、それで呆然としてしまったのだった。
「これ、そっちの花んトコに蒔いて」
利き腕を使えない志田は、私にこまごました仕事の指示をとんとんと繰り返す。
その指示は、すごく的確というか、芯を突いていて、とてもわかりやすかった。
そうして彼自身は、私では区別がつかないような雑草の駆除やら、力を使うだけの大雑把な仕事を淡々とこなしていた。
その後小一時間ほどして、手入れを一通り終えた私たちは、花壇のフチに座ってようやく一息ついていた。
「ふー。や、助かった。おつかれさん。今日は大分早く終われた。いつもの半分以下、かな?」
多分世辞だろう。
素人丸出しの私なんて足を引っ張っただけで、そんなに役に立てていたはずがなかった。
いつもこれだけのことを、こいつはひとりでやっているのだ。
花壇っていったって、結構な面積がある。
私は志田がしていた仕事に比べると、ほとんど大したことも出来ずにいたっていうのに、それでもすっかり汗びっしょりになっていた。