無意確認生命体
「う~ん。だって、当てになんないよ、そんなの。ああいうのってチャンネル変えてみたら全然結果が違ったりするでしょ」
私は諦めて本心を述べる。
「はぁ!? あたしなんか今日凶だったんだよ! 凶! ――ん? げっ! なんか今あたしシャレ言ったみたいになっちゃってる? さぶ! これも凶の悲劇か? くあーっ! それに比べていいよなぁしぶちんは! 『今週、運命の出会いをするでしょう』だってよぉ~! あたしもしたいよ、運命の出会い。なんだよそれ! どこ行きゃできんだよ! ちくしょー! あ! そうだ! 明日からゴールデンウィークじゃん! わかったぞ、くっそー! その連休中にするつもりだな! 運命の出会いを! この裏切り者ぉ~!」
……美智は私の言葉など聞いちゃいなかった。
それどころか、あろうはずもない私とどっかの誰かの運命の出会いとやらを夢想し、呪っていた。
美智はこういった占いとかおまじないとかゴシップとか週刊誌とかが大好きな女なのだ。
ひとしきり喚いてから、美智は何かに気付いたのか急に黙り込んで私の顔をまじまじと見た。
「……え? な、なに?」
私はあんまりにもじーっと見られたので少したじろいだ。
「雌舞希、髪の毛濡れてるよ?」
――ぅあ、そのことか。
「あ。うん。寝癖がすごかったから。落ち着けるのに濡らしたんだ。一応拭いたんだけど、目立つ?」
美智は「はぁ~っ」と大袈裟に溜息をついて真剣な顔で言った。
「そのまま学校行くのはあたしが許さないから。はいほら、後ろ乗って」
ママチャリの後部座席を親指で指す美智。
……逆らう余地はない。
私はおとなしくそれに従った。
「部室にドライヤーなんかは置いてあったな……今から全力でこげば、なんとか……」
美智が何か呟いたかと思うと、計ったかのように信号が青にかわる。
瞬間、美智は勢いよくペダルを踏んだのだった。