無意確認生命体
しばらくそのまま座って休憩した後、志田は突然立ち上がり、
「さて、部室に行きますか」
と言って、バケツを持ち上げた。
「部室?」
私が志田に訪ねると、
「ん? 雌舞希も来るか?」
と返してきた。
私はその「部室」という、部屋を表す単語を聞いて、例の「親睦会」が頭をよぎった。
そして今更、こんな人気のない場所に、男と二人だけでいるという危機に気付く。
それに気付いてしまった私は、急に怖くなってしまい、手が震えて持っていたペットボトルを地面に落としてしまった。
「え? お、おい! どした!?」
志田が叫ぶ。
その声を聞いた途端、私は我に返った。
「……あ。……ごめん。ジュース、落としちゃった」
半分ほど残っていたスポーツ飲料は、とくとくとこぼれ落ち、地面に染みこんでいった。
「どうでもいいって、んなもん! なんだ!? 気分悪いか? 保健室行くか?」
「ううん……。大丈夫。ちょっと、あはは、情けないね。"部室"って聞いて、なんか、こないだの事、思い出しちゃって。動揺した」
それを聞くと、志田はなんだか、打ちのめされたような顔をした。
「――悪い。これから個室みたいな言葉も禁句にする。……えーっと、どうする? オレと一緒にいると、つらいか? もう帰るか?」
そう言われ、なんだか私は寂しくなった。すると口が勝手に、
「いいよ、平気。行こう。部室」
と、精一杯こいつを安心させようとするかのような口調で言った。
そして何故か部屋の場所も知らないっていうのに、先導するように私は旧校舎へと向かった。